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営業秘密メルマガコラム

2018.08.14

営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第26回|機密保持契約に関連するブランド使用許諾契約について

営業秘密官民フォーラムメールマガジン掲載コラム 第26 回

機密保持契約に関連するブランド使用許諾契約について

弁護士知財ネット 元理事長
弁護士 松尾 和子

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第1 秘密保持契約とブランド使用許諾契約

1.ブランド使用許諾契約書と機密保持契約書の役割

ブランド使用許諾契約書の作成や解釈に携わった経験者は多いことであろう。商標の使用許諾という以上、商標登録の有無・内容、使用許諾の種類、範囲(使用商品、役務、使用地域及び使用方法・態様、その他登録の可否等)、再使用許諾の条件などについても種々検討し、適切な条文の作成が必要であることは当然である。さらに、使用権の設定登録等の法律問題のほか、これに関して、当事者間の秘密保持条項も当然必要とされるであろう。

商標権者が、書類上、通常、ライセンサー、「甲」であろうが、契約締結に至るまでに、甲の商品デザインに係るファッション・プラニングの立案・提案者や、新ブランド商品の選定、客先の選定アイデア・方法・基準、集客方法等にかかる主要事項について、特に、ブランド、ファッション関係者などが加わり、その他越境ビジネスの場合には、新しい関係者の関与が問題とされてくる。また、同一企業内の部署の移動や、系列会社間の提携、技術研究の活用・提携などが考慮される。そうなると、商標使用許諾契約の締結以前の準備段階における当事者(商標使用権者をライセンシー「乙」とすると、この者は、「丙」となる。)との間に、この段階における営業活動上の秘密保持条項の特定と確保要性となり、重要になってくる。

また、これらを総合判断して、商標使用許諾契約の条文の選択・内容が考えられ、機密保持契約書からの橋渡しが円滑に行われ、両契約の調和が考慮されることになるものと思われる。

2.問題となり得る一例をあげてみることとする。

(1)甲・乙間の商標使用許諾契約書中の秘密保護条項は、教科書的典型例であって、最低、「甲及び乙は、本契約の内容及び本契約の履行を通じて知り得た相手方の営業上の秘密情報は、相手方の事前の書面による同意を得た場合以外は、いかなる場合にも第三者に開示し、又は漏洩してはならない。」とあって、その履行は、各当事者の「秘密保持規程」に委ねられていた。

他方、ここに取り上げる甲乙丙間の機密保持契約書は、甲乙間の上記締結予定の商標使用許諾契約を控えていたため、「①甲・乙間の契約締結に向けた協議・検討及び②同契約に基づいて甲が製造する可能性のある衣料品の、甲の顧客への提案を行うために開示された情報に係る技術上・営業の情報に限定して「機密情報」と定義し、機密保持については、この①及び②のための管理と当該機密情報の非開示を定めていた。その上で、契約違反について責任がある場合の損害賠償を規定し、そのほか、機密保持管理体制の定め、従業員に対する機密情報保持義務の教育、機密情報の返還・破棄(証明する書面の添付の必要性)及びや退職時において対策を講じなければならないと規定していた。

契約の有効期間は、商標関係の契約書を目前に控えていたため、「1年」であったが、満了前30日までの書面による申し出がなければ、1年間自動延長され、以後も同様であった。ただし、「本契約が期間満了その他の事由で効力を失った後も、(ア)機密保持義務及び契約の非開示、(イ)義務違反の場合における損害賠償責任、(ウ)訴訟に係る合意管轄の規定に限り、契約終了後5年間引き続き効力を有する旨明記されていました。

機密保持契約書と商標使用許諾契約につき、甲との間で問題が生じたのは、契約の有効期間の定め方と、上記3個の存続除外条項でした。

なお、「商標使用許諾契約」の有効期間は、常識的な4年であり、存続間の例外事項は存在しなく、本契約の締結により、甲丙間の機密保持契約は、存在目的を実現したため、当然効力を喪失するものと考えられ、そのこと自体は当事者間に争いはありませんでした。

甲は、機密保持契約書の規定によるならば。結局、商標使用許諾契約終了後4+5の9年間乙から機密保持契約書中の3個の条文に拘束されることに、大きな不満を抱き、特に、損害賠償に関する5年間の拘束について不満が大きく、収拾が困難でした。

(2)私は、この不満に対し、機密保持契約書は、当時すでに存在していた以上、解釈により解決する以外にないと考えました。問題の「存続条項」を検討し、実質的に、適用される事案、適用される機会の可能性、適用され得る条件はないと考え、具体例をあげて両当事者を説得するほかないと考えました。(ア)「機密保持義務及び契約の非開示」の義務については、契約終了後においても厳重に他社に開示しないことは当然であり、甲は、「非開示」を厳守するのは当然の義務であると納得していました。また、損害賠償の支払いについてみると、現実的には、「損害賠償」支払いは、法律の要件を充足することが必要であり、その立証も容易ではありません。たとえば、民法でみても、第416条、419条、420条、さらに補充的に418条ないし422条の適用要件もあります。その他・・・。当事者に対し、具体的に説いたところ、最終的に説得することができました。合意管轄の規定も存在意義があるので、両者の説得は可能であり、結局解決できて、私も救われました。

第2.営業秘密管理規程ないし契約

前項にあげたように、秘密保持契約書ないし規定は、教科書にある簡単な例が多く、実用的に意味のある規定を以前から考察していたので、最近気づいた1例を、以下、あげることとします(ご批判を歓迎します。)。

この規程の特徴は、第1に、不正競争防止法上の営業秘密の条文及び経産省の営業秘密管理指針を考慮して作成していることです。第2の特徴は、企業における営業秘密の保護を容易に実施するために、当該企業の「秘密情報管理体制」を図示し、役員、従業員等関係者各自が自分の立場、位置づけを理解しやすいようにしていることです。

〔1]営業秘密管理規定の1例

第1条(目的)本企業は、その営業秘密を適正に管理し、不正競争防止法その他法律の下における適切な保護を実現することを目的としている。

第2条(定義)
(1)この規程の適用を受ける者を明確にするため、当企業の組織内にあって直接間接を問わず、当企業の指揮監督の下にある正者員のほかアルバイト社員、派遣社員などを含み、さらに、取締役、監査役、派遣社員等にも適用されることを明示する。
(2)「営業秘密情報」の定義は、不正競争防止法にならい、生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報(以下、「有用性」という。)であって、公然として知られていないもの、とする。

第3条(営業秘密の区分)
営業秘密情報が、3区分の分類されることを明示する。すなわち、
① 極秘(保護の必要性が経営上極めて高く、ごく限られた最小限の関係者にのみ開示されるもの)、「極秘」、「Restricted」と表示。
② 秘密 当企業にとり、重要な情報で、限定された関係者にのみ開示されるもの。「秘密」、「Confidential」と表示。
③ 社外秘
当企業に重要な情報であり、従業者以外の者に対する公開を避けるべきもの「社外秘」、「Internal Use Only」と表示。

第4条(責任体制)・・・体制図を可視的に示して添付する。
当企業の営業秘密情報を適切に管理し、法的保護体制を確立するために、社長及び社長の指揮下にある2名の取締役を補佐人とし、各関係者に対し、具体的に責任と権限を明示して付与する。
①  統括責任者・・・当企業の営業秘密情報管理の統括責任者として全社に適用される営業秘密管理方針を制定し、正当に運用されていることを確認する。
② 管理責任者 統括責任者から任命された管理責任者は各部署の責任者があたり、本規定第4条等各部署において営業秘密情報管理が正しく運用されていることを確認する。

第5条(秘密区分の指定)
1.管理責任者の許可の下で、原則として当該秘密情報の作成または管理に責任を負う従業者(以下、「作成者」という。)の所属する組織の責任者(以下、「組織責任者」という。)で、第3条に定める秘密区分の指定を行う。
組織責任者は、秘密区分の指定とともに、秘密区分の有効期限およびアクセス権者の範囲を特定の上、記録する。
2.秘密情報を極秘または秘密に区分した場合、組織責任者は速やかに管理責任者および経営企画部長に対して、秘密区分等を報告する。経営企画部長は、組織責任者が指定した秘密区分等の変更を命ずることができる。
3.作成者は、指定された秘密区分に従って、紙媒体の場合、「○○ 極秘」等の文字をスタンプ等により明確に表示する。電子情報の場合、アクセスした者がはっきりと認識できるように「○○ 極秘」等の秘密区分を表示するデータを電子情報自体に組み込んで明示する。
4 作成者は、前項の方法により秘密区分を明示することが不適当な秘密情報については、秘密区分を別途適当な方法を用いて明示しなければならない。
5 従業者は、秘密情報に付された秘密区分を表す文字やデータを変更、削除、消去等してはならない。

第6条 従業者は、在職中、退職後を問わず、秘密情報を会社の業務以外の目的に使用してはならない。
2 従業者は、また、秘密情報をアクセス権者以外のいかなる者にも開示・漏えいしてはならない。
3 前二項の規定にかかわらず、従業者は、業務上秘密情報を第三者へ開示する必要がある場合には、第10条の規定に従って、秘密情報を開示する。

第7条 従業者は、第三者から秘密の開示を受ける場合、その開示につき、当該第三者が正当な権限を有することの調査、確認に努め、かつ、所定の「秘密保持契約書」または同等の契約書を締結しなければならない。
2 前項に定める場合において、従業者は、当該第三者が正当な権限を有しないとき、又は、正当な権限を有するか否かにつき疑義のあるときには、当該情報の開示を受けてはならない。
3 第三者から開示を受けた秘密を記録した媒体を返還する必要がない場合や複製が許されている場合、当該媒体を管理する組織責任者は、第6条の規定にしたがって、秘密区分の指定を行い、かつ、それが他社情報であることがわかるよう情報の出所を明示しなければならない。

第8条(秘密区分の指定の変更・解除) 組織責任者は日時の経過等により秘密性が低くなり、または、秘密性がなくなった秘密情報については、適宜、秘密区分の変更または秘密情報の指定の解除を行う。その場合、組織責任者はただちに作成者、管理責任者、経営企画部長にその旨を通知するものとする。
2 作成者は、自己の管理する秘密情報に関して、秘密区分の変更または秘密情報の指定の解除があった場合、速やかに当該秘密情報について秘密区分の表示を変更するものとする。

第9条(秘密情報の管理)
秘密情報を記録した文書、CD―R等の媒体、造形物は、アクセス権者以外の者がアクセスできない場所(例えば、部署内の特定の者が管理する施錠可能なキャビネット等)に施錠して保管しなければならない。
2 秘密情報を管理しているサーバや端末パーソナルコンピュータについては、情報セキュリティ管理規程に従って、ウィルス対策を講ずるものとする。
3 極秘および秘密に区分された秘密情報を電子データとしてサーバに保存する場合、アクセス権者以外の者がアクセスできないようにファイル・パスワードによるアクセス制限をかけなければならない。
4 極秘に区分された秘密情報を記録した媒体等は、経営企画部長の事前の承認なくして、複製、撮影、社外持出しまたは社外送信を行ってはならない。
5 秘密に区分された秘密情報を記録した媒体等は、管理責任者の事前の承認なくして、複製、撮影、社外持出しまたは社外送信を行ってはならない。
6 秘密情報の廃棄は、管理責任者が決定し、次の方法により行う。
(1) 文書、図面その他の記録媒体は、シュレッダーにより裁断処分する。
(2) シュレッダーによる裁断処分が不可能な記録媒体は、焼却、溶解、破壊その他適切な方法により処分する。
(3) 秘密情報を保管していたコンピュータ・サーバ等のコンピュータ機器類を廃棄する場合、または他者に譲渡等する場合には、内蔵されている記憶装置(例えば、ハードディスク)内に残っている情報が誤って他者に開示されることのないよう、電磁的記録の消去を実施する。
7 その他、電子データ類における秘密管理については情報セキュリティにポリシーに準ずるものとする。

第10条 従業者は秘密情報を第三者へ開示する場合、事前に以下の者から承認を得なければならない。
(1) 「極秘」に区分された情報:経営企画部長
(2) 「秘密」に区分された情報:管理責任者
(3) 「社外秘」に区分された情報:組織責任者
2 秘密情報を第三者に開示する場合、開示に先立って、所定の「秘密保持契約書」または同等の秘密保持義務を定めた契約書を秘密情報の受領者との間で締結しなければならない。

第11条(従業員の退職) 従業者が退職する際、退職する従業者の上長は、当該従業者が在職中に知り得た秘密情報を特定するなど、当該従業者が負う秘密保持義務等の内容を確認する。
2 退職する従業者は、自己の管理・占有している秘密情報が記録された媒体のすべてを、その複製物も含めて、上長に返還しなければならない。
3 退職する従業者は、別に定める書式により、会社との間で秘密保持契約書を締結するものとする。

第12条(教育研修)
経営企画部長は、本規程の内容等を周知徹底させるため、従業者に対し、適切な教育研修を計画し、実施する。
2 従業者は、経営企画部長が実施する秘密情報管理に関する教育研修を受けなければならない。

第13条(懲戒処分)
会社の従業員がこの規程に違反した場合、就業規則に定めるところにより懲戒処分に付す。

第14条(改廃)
この規程の改廃は経営企画部にて上申し取締役会の承認を持って決定するものとする。

付 則
(施行日)
この規程は、○年○月○日から実施する。

添付 秘密情報管理体制図

1.統括責任者 管理本部長及び経営企画取締役
(営業秘密、管理方針の制定並びに正当な運用の確認
2.部門長
(営業秘密情報管理の正当な運用を確認する責任を負う)
3.所属長
(・秘密区分の指定
・秘密区分の有効期限及びアクセス権者の範囲特定と記録
・秘密情報として「極秘」「秘密」に指定下場合、管理責任者及び
経営企画部長への報告)
4.作成者
(従業者・秘密情報の管理責任を負う)

以上

〔2〕 私・筆者からのコメント

  1. 上記秘密保持規程は、不正競争防止法等法律に言及して、その文言などを採用しているところは、一般に受け取りやすく、理解しやすくてよいと思われる。ただし、この規定を実行するための具体策が明らかでないから、実施できるように、直ちに方策を作成・実施する必要があると思われる。
  2. 従業員の範囲などは、当該企業にとり、疑問となりやすい者を取り上げて規定するのがよいであろう。
  3. 第7条によれば、従業者が第三者から情報を示されたとき、それが営業秘密かどうかを、自分で判断することになるが、その判断及び措置を、該当する従業者自らが負担するのは酷ではなかろうか。上司と相談できるなどとし、その体制を明らかにする必要があるものと考える。
  4. 秘密情報管理体制図が作成され、有効と思われるが、それが、どのように企業内で利用のために使用(配布、図示など)されるのか明確でない。使用方法を明確にし、速やかに実行する必要があろう。
  5. 秘密情報保持のための社内教育の実行を具体的に特定して示すべきであろう。社内放送、朝礼、外出時の上司への挨拶時など判例などにも様々な例がみられている。種々方法があり得ると思われる。
  6. 秘密情報の媒体の破棄の場所・方法は具体的の場所や方法を特定すると実効性があがる。秘密資料の運搬の方法についても考慮する必要がある。
    鍵の保管場所・方法・場所・責任者も特定する必要があろう。
  7. 退職時の誓約書のひな形の準備など具体策の検討が必要である。

以上

 

 

 

 

 

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