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コラム

2016.03.28

【知財よもやま話】 第10話 権利者不明の著作物の利用―裁定制度の手続簡便化

権利者不明の著作物の利用―裁定制度の手続簡便化
知財よもやま話 第10話

 南部朋子

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1.権利者が不明な場合の著作物の利用

過去に放送された番組を、インターネットでいつでも手軽に視聴できるケースが増えてきていますが、著作権の処理がネックとなって、なかなかそれが実現できない場合もあるようです。

例えば、放送当時はDVDなどでの頒布を想定していなかったような昔の人気ドラマをインターネットで配信するような場合、配信の対象となるドラマについての権利者(原作小説の著作権者や出演者などの著作隣接権者)からあらかじめ許諾を得る必要があります。

しかし、権利者が判明していても、公表から時間が経つにつれ、連絡先が不明となっていたり、権利者が既に他界しており相続人の氏名や連絡先が不明となっていたりして、許諾をとるにとれないということがあります。

そのようなときでも、一定の条件を満たせば著作物などの利用が可能となるように、著作権法では「裁定制度」を設けています。

2.裁定制度と最近における手続簡便化

(1)裁定制度とは?

 上記のように権利者が不明であるなどの場合に、文化庁長官の「裁定」を受けて、「補償金」を供託[1]すれば、裁定の申請者は権利者の許諾がなくても著作物などの適法な利用が可能です。

(2)裁定制度の問題点

 便利なように思える裁定制度ですが、申請にあたっては、満たさなければならない条件があります。それは、「相当な努力を払ってもその著作権者と連絡することができない場合」に該当することです。

「相当な努力」を払うといっても、どの程度のことをすれば裁定申請の条件を満たすのかが不明なので、具体的に申請者がやるべきことは、政令や告示で定められています。

この点、平成26年8月までは、以下①~⑥をすべて行わなければ「相当な努力」を払ったものと認めてもらえませんでした。

①権利者の名前や住所等が掲載されている名簿・名鑑類の閲覧

②ネット検索サービスによる情報の検索

③著作権等管理事業者等への照会

④利用しようとする著作物等と同種の著作物等の販売等を行う者への照会

⑤利用しようとする著作物等の分野に係る著作者団体等への照会

⑥下記のいずれかの方法で、公衆に対し広く権利者情報の提供を求める

・日刊新聞紙への掲載

・公益社団法人著作権情報センター(CRIC)のウェブサイトに30日間以上掲載(当時の掲載料は、16,200円)

(3)手続きの簡略化

 しかし、これに対しては、裁定申請手続にかけられる人的資源や予算が限られている、①の名簿・名鑑類の更新版が発行されなくなっている傾向がある、④は実行しても権利者に関する情報を得られることがあまりない、などの意見があり、著作物などの利用のためより簡便な手続が求められてきました。

 そこで、文化庁は、平成26年8月に「相当な努力」の内容を見直し、具体的には、

・①と②はどちらかやればよい

・④は不要

・⑥のCRICウェブサイト掲載期間は、7日以上でよい

と変更したほか、制度運用面でも改善を図りました。

 

 さらに、平成28年2月には、過去に裁定を受けた著作物などをより利用しやすくするための改正がなされました。文化庁は、過去に裁定を受けた著作物などに関するデータベースをホームページで公開しています(裁定データベース http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/saitei_data_base.html)。

 過去に裁定を受けた著作物などについては、上記①・②に代わりこのデータベースを検索すればよく、上記③又は⑤に代わり、文化庁長官への照会で足りることとされました。

 

 

3.裁定制度の利用

 

 実際に裁定申請をお考えの方は、文化庁ウェブサイト「著作権者不明等の場合の裁定制度」(http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/)に掲載されている「裁定の手引き」をご覧になったうえ、申請前に文化庁担当者に相談されることをお勧めします。

[1]金銭などを国家機関である供託所に提出してその管理を委ね、最終的には供託所がその財産を、権利者に取得させる制度です。

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